渋谷の街で暮らす、19 歳の青年の肖像。 大学はとっくに中退した。
夢や希望もない。青年の日課といえば、ポラロイドカメラで自身のPORTRAITを撮ること。 昼夜は逆転し、夜な夜な街をうろつく。
そのとき、様々な人々がいる社交界に遭遇する。そこで、ある魅力的な女性に出会い、青年は少しずつ変化していく…青年は、必死に抵抗しようとするが、もがけばもがくほど、どこにも行くことができない。大人の世界を嫌い、子どもの世界に飽き飽きした。
2014年、多摩美術大学にて開催された映画祭たまふぃるむにて上映された一本の自主映画が、オリジナル完全版として待望の劇場デビューを果たす。
本作品において特徴的なのは、デジタルと16mm フィルムを織り交ぜた映像美。「最小単位のもので描きたかった」という監督の言葉通り、モノクロの色彩によって紡ぎ出される映像は、厳格な規律を保ち、被写体を美しく切り取る。
さらに一切カメラを動かさない固定撮影を通して描かれる東京、渋谷の街は、街自体がひとつのアート作品のように、妖艶な輝きを放つ。
本作品で初の主演を務めるのは、若干20 歳の超新星、吉村界人。松田龍平、森山未來が所属するOFFICE 作が誇る期待のニューフェイス。子供でもなく、大人にもなれないモラトリアム期の青年を、繊細な演技で表現する。その青年が恋をする魅力的な女性を演じるのは、映画だけに留まらずドラマ、テレビMC、舞台など幅広いフィールドで活躍を続け、また「FINAL FANTASY X」のリュックの声優としても知られる、松本まりか。夜の街を牛耳るボス役の須佐心一、女性の相手役を演じる新井秀幸などインディーズ映画に幅広く出演している彼らが、抜群の存在感で脇を固める。世界的映画監督である青山真治の「限りなく映画ににじり寄ることに成功している」というコメントが示す通り、「PORTRAIT」は、何よりも映画であることを追求した映画。ショットひとつひとつ、その絶妙なリズムと間が作り出す、世界観を体感する映画。頑なまでに動かないカメラ。反時代的ともいえる静寂とドラマの緊張感は、物語を通して新たな価値観を観客に提示している。現代都市を生きる人々へ贈る、みずみずしい人間賛歌がここに誕生した。